企業規模が大きいほど社会的な責任は、大きくなります。昨今では、大規模企業に対して企業モラルが問われるだけでなく、その社会性や企業の存在意義について広範囲に質を問われる時代になってきました。特に、日本を代表する企業になれば、各国から注目を集め、失策やトラブルを起こした場合は、国際問題にまで発展する危険性があります。一方で、ライバル企業との熾烈な競争においてはミスは、生産性やサービス提供などでミスが生じれば、企業生命を失うほどの危険をはらんでいます。
企業にとって遭遇する危険性は、次の2タイプがあります。この2つの異なったタイプの危険を排除するためのシステムの構築が、企業の安定成長に大いに役立つことになるでしょう。
<危険度分類> (1)従業員の肉体的・精神的な危険 (2)企業が正常に存続するための危険
(1)は、通勤時からオフィス内、オフィス周辺、取引先、などあらゆる場面で事故と遭遇することがあります。また、ちょっとした動作や行動が大きな事故につながることがあります。近年、ストレスやうつ病などの従業員の精神的な症例が多発して、業務に支障をきたすケースも多く見受けられます。心身両面から従業員の安全をサポートする必要があります。
(2)は、機密漏洩や企業買収や訴訟問題などによるビジネス上の危機管理のことを言います。従業員の雇用関係に関するトラブルも大きな問題になる場合があります。昨今では、セクハラ、パワハラなど従業員間のトラブルも経営に影響を与えることがあります。これらの諸問題を円満に解決し、同時に社会的信用を維持することが求められています。
通常のオフィスワークにおいては、生命を脅かすような危険は少ないように思えます。ところが日常生活の中にも危険は潜んでいます。さらに企業に所属する従業員のトラブルは、個人の問題だけでなく企業全体に波及するケースもあり、従業員教育の徹底だけでなく、社をあげて早急に危機管理に取り組んでいく必要があります。
また経済のグローバル化は、雇用のグローバル化を促進します。その結果、文化・風習が異なる外国人従業員を雇用したり、日本人従業員の海外での活動が多くなり、現地でのトラブルや事故に巻き込まれるケースも少なくありません。諸外国との法規上の問題や宗教上の問題も生じます。つまり、高度な国際的な危機管理能力が求められているのです。
最近では、日本企業の従業員が海外で誘拐されて、多大な身代金を請求されるケースもあります。日本企業は、安全管理という概念が欧米諸国に比較して遅れている例が見受けられます。わが国と諸外国の経営者の間では、この危機管理に対する考え方に大きな隔たりがあるのが事実です。
人間の行動は、予期し得ないことの連続であり、絶えず危険を伴うものです。そのため社員数が多い企業ほど危険度が高いと言えます。また企業の各種事業は、複雑な環境下で先行投資をしながら行うものであり、リスクを抱えています。大企業であるほど、人的災害やビジネス上のトラブルが発生しやすくなるため、より安全管理が求められています。
医療関係者や学識者の間で研究されている『危機理論』というものがあります。1940年代から1960年代にかけてキャプラン(Gerald Caplan)、リンデマン(Erich Lindemann)らによって構築された理論です。『危機理論』によれば、「危険な状態は、いつまでもそこにとどまり続けるものではなく、適応への過程の出発点として捉えられ、人は心理的な危機状況に陥った時に、本来持ち備えている適応行動としての様々な対処機能を用いて、心理的恒常性を維持する」と前提されています。つまり人は、危機的状況に遭遇すると、心理を安定させるために、その場の危機的状況に応じた対処機能を自然に発揮するというわけです。これによると状況に応じて人が行動する際に、その人の適応力によって、危機が発生するか、危機を未然に防ぐことができるかが決まります。つまり危機を防ぐ行動=安全行動を自らが率先して行うようになれば、ミスやトラブルは発生しにくくなります。また万が一に、何らかの事故やミスやトラブルが生じたとしても、適応行動が優れていれば、最小限の被害だけに抑えることも可能です。ましてや、間違った適応行動をしてしまえば、被害を拡大させたり、企業の信用度を著しく低下させるなど二次的被害が生まれる場合もあります。
当協会の推奨するBBS(Behavior based safety)は、肉体的・精神的・ビジネス的にあらゆる危険の生じる可能性がある行為を解消するために、危険な行動を減らし、安全を確保する行動を増やすことが可能です。人の行動が変わらない限り、企業の未来は変わりません。裏返せば、人の行動さえ変わることができれば企業も変わるのです。